不器用な二人のありふれたハッピーエンド

 私──永添は、人付き合いが上手くない女だ。

 それは単に暗い性格の問題であったり、コミュニケーションが苦手だったり、目立ちたくなかったり、と色々な理由がある。

 まぁ、よくある話だ。

 それを理解してから、必要以上に人と関わらない方が私の人生は楽だと気付いた。幸い、私は身長が高く無言だと威圧感があるようで人が寄ってくることもなく、孤立……というか、いないものとして扱われるのは簡単だった。周りの名誉のために言っておくけど、決してイジメに合ってたとかではない。

 うん。実によくある話だと思う。

 だから、彼女を見ていて不思議だった。

 彼女を意識したのは、高校二年に上がってすぐの体育館での全校朝礼だ。

 私はたまたま休んでいたので知らなかったけど、その数日前に生徒会の選挙があったらしく、その朝礼は新しい生徒会役員のお披露目も兼ねていた。

 生徒会長として三年の男の人が挨拶をする中、その後ろに控えていた彼女。

 副生徒会長──壱百満天原サロメ。

 本人がその場で挨拶することはなかったが、正直、その容姿は生徒会長より目立っていた。

 校則違反になるんじゃないかと思うような薄紫色の縦ロールが何本も巻かれている見た目は、派手そのもの。けれど背筋を伸ばして凛と立つ姿は、どこかの育ちの良い御令嬢を思わせる……という不思議な雰囲気を併せ持っていた。

 ステージに立つ彼女を少しだけ見上げる形で、私はその日、サロメを見つけた。

 もちろんサロメ自身を知らなかったわけじゃない。

 あんなに目立つ容姿なのだから、高校入学の時から話題になっていて有名だった。

 けれど、サロメをちゃんと意識したのはその時だ。二年のクラス替えで一緒のクラスになったのも意識をするようになった要因の一つかもしれない。

 サロメは、明るくいつも周りを楽しませる人だった。

 友人に囲まれて、勉学にも励み、先生からの信頼も厚い優等生。私とは真逆の人間だ。

 けれど、直感でなんとなく感じていた。「彼女は、たぶん私と似ている」と。

 ただ、それは本人の普段の振る舞いから見えるわけでも、ましてや聞いたわけでもない。私のただの妄想にすぎなかった。それでも勝手に親近感を覚えていたから目で追ってしまってたんだろう。

 だから、彼女を見ていて不思議だった。

 ある日、学校からの帰り道。

 いつも下校ルートをランダムに変えて帰っていた私は、学校から離れた公園でブランコに座るサロメをたまたま見つけた。

 夕方の薄暗い公園で一人。両手で鎖を持ち俯いている姿は、普段とは全く違う。

 「もしかしたら、泣いているのかもしれない」そう思った私は、サロメに近付いた。

「あの、さ」

 目の前に来るまで気付かなかったのか、サロメは身体を大きく跳ねさせて私を見上げた。

 いつも自信満々な瞳が酷く怯えたように歪み、表情は暗い。それでも咄嗟に取り繕おうとしたのか引き攣った笑みを浮かべていた。

 その表情は、私の妙な親近感をそのまま表しているように感じて、思わず、ずっと聞きたかったことが口をついた。

「なんでそんなに無理してるの? 辛くない?」

「え」

 サロメは目を丸くして私を見つめたまま固まった。

 カラスが鳴く声を遠くで聞いて、しばらくするとサロメの目から大粒の涙が溢れて頬を伝った。

「どおじでわがるんでずのーー!」

 サロメは堰を切ったように泣き出して止まらなかった。

 夕暮れ時、誰もいない公園で響くサロメの泣き声と、あたふたしながら宥める私。

 それが、私たちがした最初の会話だった。

──────────────

 夕暮れのあの日から、私たちは友達になった。と言っても、教室で置物扱いの私と、人気者のサロメが堂々と話すのは私的に憚られて、人目を忍んで会っている。

 学校では、屋上前の誰もいない階段が私たちの居場所になっていた。

「別に、わたくしは気にしませんわよ」

「私が気にするってば」

 そんなやり取りが定型文のように毎回交わされていた。

 サロメ曰く、元々は暗い性格らしい。

 けれど、生まれつきの容姿から目立つことが多かったため、子供の頃から人が集まってきてしまっていた。

 その中で浮かないように頑張った結果、周りから「そういうキャラ」を期待されて、後に引けなくなってしまったとのこと。

 あの日、私が言ったことはサロメの核心をついたようで、そんな人物は私が初めてだったそうだ。

 だからなのか、私はサロメに凄く懐かれている。

 携帯の連絡は、おはようからおやすみまで鬼のような量がくるし、ちょっとでも返信が遅れると拗ねる。一緒にいる時は、なぜかずっと手を繋がれていて、日常的に「好き」と言われる。

 私が積極的な性格ではないからかもしれないけれど、サロメの接し方は近過ぎて、戸惑うことが多かった。それを言うと「貴女がわたくしの本心を暴いたんですから、責任をとってくださいまし」と返される。責任ってなんだ?、と思いつつも、サロメの圧に負けて私は何も言えなかった。

 それになにより、戸惑いながらも、飾らないサロメの一挙手一投足を可愛らしいと思う気持ちの方が上回っていた。

 私たちが会うのは決まって放課後だ。

 サロメが生徒会のある日は一緒に下校。生徒会の無い日は屋上前の階段で少し喋ってから帰るのが日課になっていた。

 サロメは私と会う時間が最優先事項のようで、宿題や生徒会の仕事を片手間にしながら喋ることも少なくなかった。

 そんな時は、大体私から話しかける。

「今日は何やってるの?」

 私が訊くと、サロメが笑顔で顔を上げる。

 その日は、書き込んでいた原稿用紙を広げて見せた。

「明後日ある全校朝礼での生徒会長の挨拶文を考えてるんですわ。この文とか良いと思いません?」

 嬉々として話す姿は、子供がお母さんに自慢する時のようだ。私は、つい愛おしくなってサロメの頭を撫でる。

「な、なにするんですのよ!」

「いや、がんばってて偉いなって」

「もー! 子供扱いしないでくださいまし!」

 抗議しながらも私の手を退けようとしないサロメは、やっぱり可愛いと思った。

 台本を書くのは、サロメの仕事の一つ。朝会や大事なスピーチの時は、生徒会長に代わりサロメが台本を書いて用意していた。けれど、これは趣味に近いと本人は言っていた。

「ちょっと読みますから、変なところがないか指摘してくださいませ」

 サロメは台本を書き終えると、決まって私に朗読してくれる。艶のある声で読み上げられる言葉の一つ一つが、私は大好きだった。

「やっぱり、綺麗な声だね。サロメの声ならずっと聞いてられるよ」

「お世辞がお上手ですこと」

 素直な感想を言っただけのつもりだけど、サロメは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 私はその照れ顔を見つめながら、口を開く。

「お世辞じゃないよ。将来は、そういう……喋る職業を目指してもいいんじゃない?」

「喋る職業……」

 サロメは宙に視線を彷徨わせる。

 私は、YouTubeでたまに流れてくる2Dの姿で喋る人たちを思い浮かべた。

「うん。ほら、VTuberだっけ? 流行ってるし。お嬢様みたいな格好でやったら人気になりそうだよ」

 少し考えたサロメは、右手の指を伸ばして手の甲を鎖骨の辺りに置いた。

 それは、まるで高笑いするお嬢様のようなポーズ。

「おーっほっほっ。壱百満天原サロメですわ〜!……って、感じですの?」

「そうそう。そんな感じ」

 想像通りのお嬢様姿に思わず拍手を送る。

 サロメはクスクス、と笑った。

「ふふふ……でも、わたくしにはたぶん出来ませんわ」

「どうして? 似合っていたのに」

 首を傾げると、サロメは一瞬責めるような目で私を見てから、すぐに下を向いた。

「YouTubeみたいに不特定多数の前でスラスラと喋れる気がしませんもの。きっと、無理にがんばってしまいます」

 サロメが顔を上げて私を見つめる。

 大きな輝く瞳は、不安そうに、或いは懇願する色をしていたように思う。

「わたくしがVTuberをやって無理をした時、その隣に紫さんは居てくれるんですの?」

「……それは、分からないかも」

 私は、首を振って答える。

 断定出来ないことで、サロメを振り回すことはしたくなかった。

 すると、サロメは「やっぱり」と小さく呟いた。

「なら、やっぱりやりません。

貴女がいなければ、無理をしてることにすら気付けなくて、潰れるかもしれませんから」

「そっか……そうかもね」

 私は頷く。考えてみれば、サロメは今までずっと無理をしてきたのだ。もし、その無理が仕事になってしまえばどうなるのか、想像するだけで苦い気持ちになる。

「それに……」

 サロメは顔が見えないくらい深く俯いて、小さな声で続けた。

「わたくしの声って、周りからすれば特殊みたいで、昔よくバカにされたんですのよ。

それが少しトラウマで、大勢の前だと声が出なくなるんですの」

「特殊って……私はサロメの声、大好きだよ」

 咄嗟にそう返すと、サロメが顔を上げる。

 その表情は、鬼の首を取ったみたいにニンマリと得意気な笑顔を浮かべていた。

「ようやく好きって言ってくれましたわね?

 その調子でわたくし自身のことも好きって言ってくれていいんですのよ?」

 可愛く首を傾げる姿が眩しい。

 私は、目頭を抑えて天井を仰ぐ。キュンとする内心隠して、なんとか言葉を返した。

「うーん……親愛……じゃ、ダメ?」

「全然足りませんわ」

「厳しいなぁ」

 苦笑いを返すと、サロメは不満気に頬を膨らませた。

 サロメは知らない。私がどれだけサロメを必要としているのかを。

 私は、人付き合いが上手くないから、ずっと一人で過ごしてきた。

 家でも、学校でも、出掛ける時なんて買い物くらいだ。それでいいと思ってた。

 でも、サロメと過ごして世界が広がってしまった。

 誰かと話すことが楽しい。他愛ない冗談を言い合えると嬉しい。そんな体験は、初めてだった。

 世界はいつも変わらず灰色だと思っていたのに、サロメは私の知らない色とりどりの風景を教えてくれた。

 知ってしまえば、もっとほしくなってしまう。私は、欲張りだったらしい。

 おかげで私は、サロメのいない世界に戻れなくなってしまった。いつのまにか、サロメは私にとってかけがえのない存在になっていたのだ。

 サロメのことは、好きだ。でも私の「好き」と、サロメの「好き」は、たぶん違う。

 けれど、どう違うのか、まだ答えは出ていない。

 そんな半端な気持ちを、サロメには言えなかった。

「まぁ、いいですわ。気長に待ちますわよ」

 サロメが眉を下げて寂しそうに笑ったのをよく覚えている。

 思い返せば、あの時言ってしまえば良かったのかもしれない。と、何度も考えてしまう。

────────────

 その日、全校朝礼でステージのマイクに向かい、サロメが立っていた。私は、信じられない状況に固まる。

 サロメをよくよく見れば青い顔をして、手元の原稿用紙を震えるほど握りしめているのが分かった。

 おそらく、生徒会長が休んだかなにかで代わりにサロメが頼まれたのだとすぐに分かった。

 サロメは人の頼みを断れない。無理にキャラクターを演じている理由だって、元々は人に期待された結果なのだから。

 ステージのサロメが前に出過ぎて、マイクに手が当たる。

 グワン、とマイクの歪む音が大きく響いて、何人かが耳を塞いで顔を顰めた。

「す、すみませ……」

サロメは咄嗟に謝りかけて、口を押さえた。

一瞬、かすかに嗚咽のような声が混じる。もう、限界なのは明らかだった。

 やがて、いつまで経ってもスピーチが始まらない状況に、周囲がざわめき出した。

 この状況、どうすればいい。

 誰か、サロメに気付いてあげて。

 誰か、誰か。

 周りを見回しても、みんな一様に不思議そうな顔をしている。私だけがサロメの異変に気付いていた。焦る気持ちが鼓動を速くさせていく。なぜ、どうして、

 なんで、誰も分からないんだ。

 あんなに、辛そうじゃないか。

 その言葉が心の中をよぎった瞬間、あの日の夕方がフラッシュバックした。

 子供のように泣くサロメ。頑張り過ぎて引っ込みが付かなくなってしまった不器用な人の涙。

 あの姿を知っているのは、私だけだ。

 だからこの状況の深刻さは、私にしか分からない。

 ステージのサロメが口を押さえたまま視線を忙しなく動かしている。それはグルグルと生徒や先生たちの顔を滑り、そうして、私で止まった。

 私たちは、時間を忘れたように見つめ合う。やがて、サロメの押さえた手の隙間から口が微かに動いたのが見えた。

(たすけて)

 けれどそれは声になることはなく、サロメは視線を外して俯いた。それで自分がどうするべきか、やっと分かった。

 サロメを助けるのは誰かじゃない。私だ。

 そう決めた途端、それまで焦っていた気持ちがストン、と落ちて覚悟に変わった。

 私は並んでいた列を抜け出し、横からステージへ歩みを進める。他の生徒から奇異の目が私に向けられるが、気にしない。

 そうして歩いていくと、目の前に一人の男性教師が出てきて私を制止した。

「まてまてまて、何する気だ?」

 生徒指導の教師だ。彼は、両手を広げて行く手を塞いだ。

 今は問答している時間すら惜しいのにというのに。

「サロメを助けにいきます。どいてください」

 簡潔に伝えると、教師は「は?」と溢し、心底訳が分からないという表情をした。そして、そのまま口を開く。

「助けに? 今、あいつは一生懸命に喋ろうとしてるじゃないか。来年は生徒会長候補なんだから、スピーチくらいできないとな。せっかくこの場を俺が用意したんだから……」

「アナタが犯人か」

 教師の言葉を理解した瞬間、自分のものじゃないくらい低い声が口から出た。目の前の教師は、身体を強張らせて一歩下がる。

 今の言い方でわかった。サロメは頼られてあそこにいるんじゃない。この教師に追い立てられたんだ。

 たぶん、この人に悪気はないんだろう。苦手なことを克服させようとするのは、指導の一環なのかもしれない。

 けれど、私とサロメは似ているから、それが最悪の手だと知っている。

「どいてください」

「なぁ、待てって」

 無理矢理押し通ろうとする私に、教師が手を伸ばした。その手が触れる前に、睨みつける。

「触ったら、職員会議で問題にさせますよ。証人はいっぱいいますから」

 教師は、押し黙った。

 それが、予想外のことを言われたからなのか、言い返せない悔しさからなのかは、分からない。どうでもいいことだ。

 私は教師をかわして、そのままステージに上がっていく。

「サロメ」

 ステージを進んでサロメの隣に立ち、呼びかける。瞬間、身体を大きく跳ねさせたサロメは、青い顔を私に向けた。大きな瞳は潤んで、今にも泣いてしまいそうだ。

 私は、怯えきって震えるその手を握り、微笑む。

「ごめん。遅くなった」

「あ……」

 サロメの震えが止まった。私はマイクに向かい合う。

「副会長は調子が優れないようなので、永添が代わりにスピーチをさせていただきます」

 間違えるかもしれない。辿々しくてサロメみたいには上手く出来ないだろう。

 でも、スピーチの内容は覚えてる。だって、サロメが毎回楽しそうに聞かせてくれたから。

「──以上になります」

 サロメが朗読していたことをなぞり、スピーチを終えて礼をする。

 静けさが支配する体育館は、私が上手く出来たか答えをくれなかった。

 でも、どうでもいい。それよりも今はサロメをステージから逃さないといけない。

 私はサロメの手を引いて歩き出そうとする。けれど、サロメは石のように動かなかった。

 振り向いてサロメの足を見ると、今にも座り込みそうなほどガクガクと震えている。顔を覗き込むと、引き攣った笑みが返ってきた。

「足に力が入らなくて……立ってるので精一杯ですわ」

 弱々しい声に、私は少し考え込む。けれど、すぐに答えは出た。「ここまでやったんだから、いっそのこと吹っ切れてしまおう」と。

 私はサロメの膝裏に腕を回して、そのままお姫様抱っこで抱え上げた。

「ちょ……!」

「サロメは軽いなぁ」

 サロメが顔を真っ赤にして私の胸を叩く。けれど衰弱した力では、びくともしない。

「紫は、目立つ事嫌いでしょう?! こんな」

 サロメの目尻には涙が浮かんでいるように見えた。けれど、それはきっと恥ずかしさからくるものだろう。顔を真っ青にして流す涙よりは、ずっといい。

 サロメの懸念も、私は吹っ切れていたから、もう周りの目は関係なかった。

「スピーチした時点で、もう手遅れだよ。それにサロメを一人にするくらいなら、笑われた方がマシだ」

 笑顔でそう言うと、サロメは目を丸くして驚いた表情を浮かべる。そんな可愛い顔をされたら、私はいっそう笑うしかない。

 そこで、ふと気付いた。私の持っている「好き」が、この瞬間、おそらくサロメの「好き」と同じになったことを。

 この感情は、愛している、の「好き」だ。

 自覚してしまえば、あんなに中途半端だった気持ちは、昔から居たみたいな顔で心の隙間にあっさりと収まっていた。

 今ならなんでも言える気がしたから、私はサロメにいつか伝えようとしてた誓いを口にした。

「サロメ、私がずっと一緒にいるから。もうがんばらなくていいよ」

 サロメの表情がくしゃり、と歪む。

 そのまま大粒の涙を流して泣きじゃくる姿は、いつかの夕方と同じ。違うのは、あたふたするだけだった私が、腕の中にサロメを抱き抱えていること。

 私は、「あの日、私はこうしたかったんだ」と、やっと答えを見つけたような、晴れやかな思いを胸にサロメを抱えてステージを降りた。

──────────

 その後、スピーチの件が発端となり、サロメが無理をしていたことを周囲が理解し始めたことで、環境は劇的に良くなった。

 強がってみせることが減り、最近のサロメは、素に近い状態で高校生活を満喫出来ていると思う。

 それは、良いことだ。

 ただ、問題は私の方だった。

 あの日以来、私のあだ名は「王子様」になってしまった。

 そうして学校中の注目の的となり、日陰者の私にとって肩身の狭すぎる日々が、しばらく続く羽目になったのだった。

「ちょっと、聞いてますの?」

「え、あ、ごめん。何?」

 午後の休み時間。教室にて。

 ぼんやりとしながら、忙しなく過ぎた日々に思いを馳せていると、目の前の席に座るサロメからキツい口調が飛んできて我に返った。

 どうやら何か言われたらしい。呆れた顔でサロメが肩を竦める。

「愛しい彼女が話しかけているのに上の空とは、余程大事なことがおありなんですのね?」

「ごめんって。サロメ以上に大事なことなんてないよ」

「……言葉がお上手ですのね!」

 腕を組んで不満そうにするサロメがぷいっ、と顔を逸らす。

 そんな私たちのやり取りを見ていた周りから、ヒューヒューと指笛が聞こえた。私は苦笑いでそれに手を振り返す。

 あれ以来、サロメは私と付き合っていると公言して回っていた。

 別に間違いじゃないからいいんだけど、言いふらすようなことでもない……なんて抗議すると、サロメが怒るので言わないけど。

 そして、なぜか周囲もそれを自然に受け入れたようで、こうして冷やかされている。もう随分経つけれど、この冷やかしの上手い返しが未だに分からない。

 慣れない苦笑いで周囲を宥めたあと、目の前の不機嫌なお姫様に、私は耳を寄せた。

「サロメ、好きだよ」

 途端にサロメは顔を真っ赤にして、私の胸を叩く。笑い返すと、頬を膨らませた可愛い顔で睨まれた。

 私は、これから何回でも伝えるだろう。いつか言えなかった後悔の分より多く、たった二文字の言葉を。

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 人付き合いが不器用な私たちは、確かに似たもの同士だ。だからこそ、これからも一緒にいるんだろう。

 あの日の夕方から始まったお話は、二人で手を取り合いながら、ありふれた唯一無二のハッピーエンドに進み続けている。

end